大島滋(Aプロジェクト)+芦沢啓治《Hapworth16》
芦沢啓治建築設計事務所(http://www.keijidesign.com/)
施行
ミサワホームイング東京(株)開発事業部
super robot(http://www.super-robot.com/)
ismi design office(http://www.ismidesign.com/)
吉祥寺に行くとなぜだか元気をもらったような気分になる。少々道に迷っても活気のある商店街のおかげで、旅行中の散歩にも似た満足感を得られる。このギャラリーは、そうした商店街の中程に位置する築30年を超えるマンションにある。1階にイタリアンレストラン、2階にミステリー専門の本屋、他にもマッサージ屋、事務所、住居などが入り混じっている。どこのお店に入っても、かつての同潤会アパートのようなヒューマンスケールにあふれており心地が良い。
クライアントである大塚氏、白倉氏の主な要望としては、ギャラリーであること、時に本屋であること、事務所としても使用できること、防犯上と見せ方の観点からガラスのショーケースが欲しい、など。しかし30平方メートルという狭い空間の中でそれぞれを共存させるのは、ひとつの世界を作り出す上で非常に困難である。まずは壁で構成されたギャラリーの状態を基本として検討を進めることにした。必要に応じて壁を内側にオフセットさせる。その壁はすべて建具である。開くことで機能が顔を出す。または既存の荒々しいコンクリートブロックが現われる。小さな空間ががらりと雰囲気を変える。黒皮の鉄板床、荒っぽいモルタル天井、白い壁という舞台セットに常に存在し続ける役者として、受付のステンレスカウンター、黒皮でできた可動棚、顕微鏡のような照明器具がある。それらはプロダクトとして、ギャラリーの主役であり続けるのに耐える要素として、デザインを検討している。
ギャラリーの名前はHapworth16。サリンジャーの小説のタイトルであり、とある住所、場所を指し示すものであるようだ。実になんでもないこの雑居ビルの301号室という設定は、小説的なトリックが含まれているような気がして、思わず微笑んでしまうのだ。
芦沢啓治(建築家)