第6回:ライト・ストラクチャーの可能性

SANAA(妹島和世+西沢立衛、建築家)×佐々木睦朗(構造家)
司会=難波和彦(建築家)

9──《Junko Fukutake Hall》


妹島──《Junko Fukutake Hall》(2013)は、岡山大学医学部が主に学会発表に使う会議場ですが、この建物を大学に寄付された福武純子さんは、市民も使えるような、開かれた多目的なホールをつくりたいとおっしゃっていました[9-1]。いくつもの屋根を集合させることで、大きな会議もできて、分けて小さい会議もできる。さまざまな使い方が可能な空間構成です[9-2]


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9-1──《Junko Fukutake Hall》

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9-2──平面図

妹島──《ROLEXラーニングセンター》は、設計途中でランドスケープも考えていいと大学側から言われました。内部では外部とつながった体験をつくることができましたが、平面はじつは四角くて、外部のどこに木を植えていいか難しく、やはり中と外がちょっと切れた感じはあった。《Junko Fukutake Hall》は、平面図はものすごく変わった形で、入り組んでいて、カーテンをすべて開くと500人が入れるようになり、小さくばらばらに使うこともできるように個々に独立した屋根をかけています。全体が一個のような群れのような、どちらとも言える形で、中と外の連続、調和は四角い建築にはないものでした。佐々木さんは「なんでこんな変なことをやるの?」というような顔をされていたようにも思います。


佐々木──構造的には連続していながら建築的には不連続な建築ですね[9-3]。日本の場合、地震があるからどうしても横力に抵抗できるものが必要になり、それを全体のバランスのなかでどう納めるかが重要です。そのためには平面的には独立していても構造的には全体が有機的に連続している必要があります。例えば、内部の大きなホールはブレースがあまり入っていませんが、外側の小さいホールにブレースを入れて、そちらに立体的に地震力を伝達させてホール全体を耐震的に持たせるという工夫をしています。そういったことを最初にやったプロジェクトですね。現場です[9-4]。構造体は鉄骨なので足場は基本的にはあまりいらないのですが、仕上げのために総足場になっています。


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9-3──構造システム図
提供=佐々木睦朗構造計画研究所

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9-4──施工現場
提供=佐々木睦朗構造計画研究所

妹島──柱は直径89〜216センチの5種類の太さがあります[9-5]。全体が連続していて、使い方によって場の形が変わるのは《金沢21世紀美術館》とも似ていますが、もう少し空間の形の変化をはっきりさせています[9-6]


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9-5──内観

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9-6──内観

10──《グレイス・ファームズ》


西沢──《グレイス・ファームズ》(2015)というアメリカのニューキャナンに最近完成した建物です[10-1]。機能はいろいろあるのですが、もともと農場だったところに、礼拝堂、子どもが学ぶ場所、体育館、地域の人びとが食事できる場所などがあって、簡単に言うと地域センター的なものです。大変美しい自然のなかに谷があり、湿地があり、眺めも素晴らしいところなので、各部屋を異なるレベルに配置しつつ、雁行させて並べています[10-2]。各部屋は基本的に独立しているのですが、それらに木造の屋根をかけることで一体化しています。地元の人たちは「リバー」と呼んでいますが、川のように斜面を流れ落ちてくるような屋根の形になっています。


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10-1──《グレイス・ファームズ》
© Iwan Baan

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10-2──平面図

妹島──高いところから低いところへ15メートル弱下がっています。施工時に綱を張って、機能配置と地形の関係を確認しました。ホール、ライブラリー、オフィス、大きなダイニング、体育館があり、競走馬の練習場だったところなので馬屋のH型の形態を残して子どもたちが遊べるようにしています。


佐々木──周辺の自然環境が本当にきれいなところで、耐風設計上の問題はありますが、フレームやブレースなど余計な構造を設けずにシンプルに独立柱だけでやりたいと思いました[10-3]。鉄骨の柱がキャンティレバーになっています。独立柱の上に鉄骨の外周梁を連続させて、そこに、柱と関係ない位置でもかまわず木造の梁をジョイスト状にどんどんかけています。20数メートルの大きなスパンのところには集成材による曲がり梁の下に高張力鋼の下弦材を設けて張弦梁とすることにより、他の木造部分とそんなに断面寸法が変わらないようにしています。また、支持部分や接続部分など場所によっては集成材の梁の中に鉄板を入れて補強していたりもします。こうして同じような断面寸法の集成材とすることで木造屋根の連続性、統一性を作り出しています[10-4]。外周の鉄骨梁は鉄骨柱の直上の部分で現場ジョイントしているので、通常の継ぎ手のようにハイテンションボルトも何も見えてきません[10-5]。非常にシンプルです。足元も、アメリカのエンジニアによるVE提案でローテクにつくっています。日本だと、ハイベースなどのスマートな柱脚固定製品に頼ってしまいますが、ローテクながら安価でプラグマティックな納まりには感心しました。あとは、サッシを外に出してヒートブリッジを避けています。冬場は非常に寒いところですが、外気に触れる跳ね出し部分は木造屋根にすることで解決しています。


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10-3──屋根構造の計画
提供=佐々木睦朗構造計画研究所

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10-4──施工現場
提供=佐々木睦朗構造計画研究所

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10-5──施工現場
© Dean Kaufman

妹島──体育館は大きなスパンを飛ばしていますが、曲がり梁のライズを上げて張弦梁で引っ張っています[10-6]。ほかのところは直線の集成材をつないで、全体はなんとなく柔らかい、この土地と馴染んだ三次元の屋根になっています[10-7]。手前が図書館で、奥にダイニングなどがあります[10-8]。さらに奥に体育館の屋根が見えています。ちょうど先週行ってきたところですが、自然のなかにのびのびと屋根がかけられていて良かったです[10-9]


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10-6──体育館、内観
© Iwan Baan

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10-7──外観
© Dean Kaufman

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10-8──図書館、内観
© Iwan Baan

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10-9──外観
© Iwan Baan

11──《ブダペスト美術館》


妹島──[11-1]これからつくろうとしている《ブダペスト美術館》です。佐々木さんと一緒にやった一番最近のコンペで、約40,000平米の大きな建物です。公園に建っているので、外部からめぐるルートと内部をめぐるルートをつくっています。なんとなく《Junko Fukutake Hall》などの延長で考えていました。コンペのときに佐々木さんがすごく合理的なまとめ方を提案してくださいました。


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11-1──完成イメージ図

佐々木──彫刻的で不連続な集合のように見えるけれど、非常に規模が大きい建物ですからある程度合理的に構造のルールを決めておく必要がありました。各ボリュームをばらばらに考えると大変なので、メインのボックスを徹底的に合理的につくり、周りに意外性を持たせるために軽やかなものとして、それらを組み合わせるという構造システムです。プレキャストコンクリートの大きな箱状の構造に、細い柱と薄い屋根による小さなボリュームの構造がまとわりつきながら全体を構成しています。



構造・構築・建築──佐々木睦朗 連続討議

201610

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