グローバル・アイデア・プラットフォームとしてのヴォリューム
VOLUME #1:
Architecture must go beyond itself,
Archis, 2005.
VOLUME #2:
Doing (almost) Nothing,
Archis, 2005.
VOLUME #3:
Broadcasting Architecture,
Archis, 2005.
Lagos Wide and Close,
Submarine, 2005.
レムがまた「仕掛けた」ということで、まずは興味を引くだろう。しかし、そうした単なる話題性を超えて、この「仕掛け」は、きわめてエキサイティングであり、また意味が深い。
レム・コールハースは、自らの建築設計事務所であるOMAによって、現代建築としてきわめてクオリティの高い傑作建築群を生み出すかたわら、ミューテーションズ展といった展覧会の企画、ハーヴァード大学での学生との協働リサーチ、そしてシンクタンクとしてのAMOの設立など、実に多彩な活動を繰り広げていることは、すでに周知のことであろう。
そのレムが、アーキス、シー・ラブと一緒にはじめた新たな出版プロジェクトが、『ヴォリューム(VOLUME)』である。アーキス(Archis)は、1929年から続く同名の建築雑誌を発行するオランダの出版社であり、同誌はそのポレミカルなスタイルで知られていた。シー・ラブ(C-lab)は、コロンビア大学建築学科の中に設けられたthe Columbia Laboratory for Architectural Broadcasting の略称であり、ジェフリー・イナバがリーダーとなっている。『ヴォリューム』は、これらAMO、アーキス、シー・ラブの共同プロジェクトで★1、編集長としてオレ・ボウマン、プロジェクト・ファウンダーとして、ボウマン、レム・コールハース、マーク・ウイグリー(コロンビア大学、建築学科ディーン)が名を連ねている。
『ヴォリューム』は、隔月発行の予定で、毎号が透明のプラスティックのケースに入っている。『ヴォリューム』の冊子本体と、毎号いくつかの付録とが、このケースに収まっているというわけだ。今のところ、第3号までが手元にあるので、それらの内容を紹介しよう。
第1号は、ARCHITECTURE MUST GO BEYOND ITSELF[建築は自らを超えて行かなければならない]とのテーマが掲げられており、これは創刊にあたっての『ヴォリューム』の方向性をも示す、スローガンともいっていいだろう。このように各号ともにこうしたテーマ/スローガンが掲げられており、それはこの冊子が明快な編集方針に基づき作られていることを示すとともに、このプロジェクトがとても挑発的で扇動的であることをも意味している。この第1号では、ARCHITECTURE MUST GO BEYOND ITSELFがテーマであるとともに、BEYONDもキーワードとなっており、例えばレムの論考は「Beyond the Office」とタイトルが付けられている。これは、レムの事務所自身がオフィス・フォー・メトロポリタン(OMA)であることを考えるととても示唆的であるが、この中でレムは今日建築家だけを遂行することの困難を訴えている。また、第1号の付録としては、ブリュッセルで昨年開催されたAMOによるEUの展覧会についての80頁にもなるブックレットがついている。
第2号の特集はDoing (almost) nothing[(ほとんど)何もしない]、第3号の特集はBROADCASTING ARCHITECTURE[建築を放送する]。基本的に建築作品のグラビアはなく、テキストが中心の構成となっているが、特集や論考に即した写真等は多く、全体的にグラフィカルなエディトリアル・デザインが施されている。建築をとりまく状況に関するテキストが多いのだが、レムのポルトのカサ・デ・ムジカに関するものや、アレハンドロ・ザエラ・ポロによるThe Hokusai Wave(北斎の波)という自らの建築論を披露したものもある。
付録もほんとうに充実していて、付録というよりも、ひとつのフォーマットに納まらない、さまざまな試行や情報を伝えるメディアという方が正確だろう。第2号には、AMOによる世界の石油とガスのマップ、上原雄史がベルラーヘで行なった中国の都市に関するリサーチ「Urbanism of Victims. Unknown Urbanity in China-Village within the City[犠牲者の都市:中国の知られざる都市計画──都市の中の村]」、第3号には、C-Labの新聞、アーキスが昨年欧米の各都市でAMOと共同で行なった、On the Borderline と名づけられた7回のイヴェントを記録したCD-ROMなどなどが、付録として同封されている。
この連載の前々回にも、『A10』や『Log』といった新しい建築メディアを紹介し、建築にまつわる情報を再編成、発信するトレンドを紹介したが★2、今回の『ヴォリューム』も、同じ傾向が世界で進められていることを確認できるだろう。こうしたグローバルなムーブメントに積極的にかかわるのか、それとも気付かないふりをして自国の建築的テーマを再生産して過ごすのか。閉塞的な状況を突破したいと思うのであれば、とるべき道は明らかであろう。
インタヴュアー──なぜ、ラゴス?
レム──長くかかわるにつれて、ますますわからなくなっています。私たちはハーヴァード大学で都市に関するプロジェクトをはじめ、それはどの都市が最も早く変化しているのかを明確にし、またそれらがどのように変化しているかを理解しようというものでした。私は、将来とても重要となる都市のリストを作りました。中国のパール・リヴァー・デルタは、そのひとつで、なぜならばその人口は20年のうちに1200万から3600万に急上昇したからです。もうひとつは、ラゴスでした。★3
「Lagos Wide & Close」は話題となった、ミューテーションズ展で紹介された、レムとハーヴァードの学生達のラゴスのリサーチを映像化したDVDである。ラゴスはアフリカ中部にある国ナイジェリアにあって、最大の港および商業地域である。現在1500万人が住むこの都市は、急激な勢いで成長を続け、2020年には世界で3番目の都市になるだろうと予測されている。ラゴスの状況については、これまでもレムによって伝えられてきたが、その現実の映像というのはやはり圧倒的迫力を持つ。見渡す限り続くバラックや道路を埋め尽くすトラックや乗用車の映像の背後には、レムへのインタヴューや現地の人々の声が流れている。
★1──それぞれのURLは以下のとおり。
アーキス/ヴォリューム: http://www.archis.org/
OMA/AMO: http://www.oma.nl/
コロンビア大学建築学科/C-lab:http://www.arch.columbia.edu/
★2──建築メディアの再編成:https://www.10plus1.jp/archives/2005/09/12233923.html(「10+1 web site」2005年9月号)
★3──上記DVD「Lagos Wide & Close」に収められた、インタヴューより。
[いまむら そうへい・建築家]