建築を知る情報学

今村創平(建築家、千葉工業大学准教授)

ここでは、建築を知るための情報学がテーマであるが、その場合、「いかに情報を入手するか」と、「どのような情報を入手するか」が問題となる。そのことを意識しながら、書き進めてみたい。

建築情報サイト

今日、情報を手に入れようとすれば、まずはネットでとなる。とはいえ、例えばいまgoogleで「建築」と入れて検索をかけると、6,280万件がヒットする(architectureでは2億件以上)。このような膨大な情報から、「自分にとって有効な情報」を探すには、どうすればよいのか。
それを知りたいから、この文章を読んでいると言われるかもしれない。では、具体的に話をすると、おそらくいま世界で一番評価の高い建築情報サイトはArchDaily★1であろう。質の高い情報が、毎日複数アップされる。ほかにも、世界の建築・デザイン情報サイトでメジャーなものとしては、dezeen★2designboom★3などがあるが、いずれもそのfacebookページで「Like(いいね!)」を押しておけば、自分のfacebookのニュースフィールド上に、世界の建築情報が自動的にアップされるようになる。ただしfacebook上では情報が限定されるので、直接それぞれのサイトに行ったほうが、より多くの情報が得られる。日本のサイトとしては、dezain.net★4architecturephoto.net★5などがポピュラーだろう。そもそも英語が苦手という学生は多いだろうし、日本のサイトには日本国内の情報が載っている。

 

ArchDaily

 

こうした多くのサイトは、新しい話題やトレンドを把握するのに便利である。一方で、記事はほとんどがごく短いものと少々物足りなく、ざっと眺めるためにつくられているサイトが大半だ。ArchDailyの場合は、これまでの記事が25,000件を超えており、こうした情報がアーカイブとなっており、検索もできる。とはいえ、最新の情報だけではなく、過去の情報も見ようとするとあまりにも量が多すぎる。かくも、ネットには情報があふれており、日々接しているなかでだんだんと目も肥えてくるものだが、特に建築を学び始めたばかりの学生は戸惑ってしまうだろう。そうした場合、ArchDailyのホーム画面の右側に記事がタイプ別に分けられているので(Articles by Type)、そのなかの「AD Architecture Classics★6を選ぶと良い。ここには、傑作とされている世界中の建築が集められており、まずはこれらの建築から観よう。しかもこうしたサイトには珍しく、多くの建築には図面も付けられている。このArchDailyのタイプ分類は有用で、ほかにも例えば、環境建築に関心があれば「Sustainability」を、美術館に興味があれば「Museums and Libraries」を選択すれば、そうした種類の建築に関する情報を観ることができる。

★1──ArchDaily URL=http://www.archdaily.com
★2──dezeen URL=http://www.dezeen.com
★3──designboom URL=http://www.designboom.com
★4──dezain.net URL=http://dezain.net
★5──architecturephoto.net URL=http://architecturephoto.net
★6──ArchDailyのタイプ分類「AD Architecture Classics」 URL=http://www.archdaily.com/category/ad-classics/

教育機関

学生であれば、他大学の学生がどのようなプロジェクトを手がけているかが気になるだろう。日本の大学では、まだそれほど学生の作品がアーカイブ化されていないが、例えばロンドンのAAスクール★7のサイトには、きわめてクオリティの高い何千もの学生のプロジェクトが掲載されている。ほかにも、著名な建築学校、ロンドン大学バートレット校★8ハーヴァード大学GSD★9南カリフォルニア建築大学★10などのサイトを見れば、英語のため内容は一見わかりにくいかもしれないが、さまざまな刺激を受けることだろう。もちろんこうした建築学校のサイトは、将来留学を考える際にも参考になる。また、AAスクールの場合、同校で行なわれた多数の著名建築家等によるレクチャーのヴィデオが、500本近くアーカイブ化され、公開されている★11。建築家のレクチャーの動画は、YouTubeでも多数観ることができる。もし好きな建築家をYouTubeで検索すれば、その建築家の動画が見つけられる。

★7──AAスクール URL=https://www.aaschool.ac.uk
★8──ロンドン大学バートレット校 URL=http://www.bartlett.ucl.ac.uk/architecture
★9──ハーヴァード大学GSD URL=http://www.gsd.harvard.edu
★10──南カリフォルニア建築大学 URL=http://www.sciarc.edu
★11──AAスクールのヴィデオ・レクチャー「AA Public Lectures」 URL=http://www.aaschool.ac.uk/PUBLIC/AUDIOVISUAL/videoarchive.php

設計事務所

建築家自身のウェブサイトも、その建築家の作品を観るには適していて、海外の建築家のサイトには、美しい作品集のようなものもある。例として、リチャード・マイヤー★12ジョン・ポーソン★13のサイトを挙げておこう。ヘルツォーク&ド・ムーロン★14のサイトなどは、最初はどう見ればよいか良くわからないが、スライドショーを選べば、彼らの多くの作品を観ることができる。

★12──リチャード・マイヤー URL=http://www.richardmeier.com
★13──ジョン・ポーソン URL=http://www.johnpawson.com
★14──ヘルツォーク&ド・ムーロン URL=https://www.herzogdemeuron.com

事典、辞書

ネット上の情報検索といえば、ウィキペディア★15が上げられるが、残念ながら建築に関する情報はそれほど充実しているとはいえない。該当する項目があったとしても、断片的な情報であったり、内容に偏りがある場合もある。ウィキペディアは、最近話題になっているようなことよりも、基礎的な知識についてのほうが充実しており、また内容も信憑性が高い。例えば、「ニューヨークの歴史」といったことを知りたいときにさっと目を通して、概略を知るといった使い方には有効である。よく、レポート課題などで、「ウィキペディアからコピペしないこと」などと言われるのは、自分で考えずに流用することを禁じることと、ネットの情報には正しくない情報が多く含まれているという、二つの理由からだ。また、ウィキペディアは、日本語版よりも英語版のほうがずっと充実しているので、日本語で検索して物足りない場合は、その項目の英語版を見ると良い。
ネットに関して、ここまで外国のサイトをいくつか薦めてきたが、英語はハードルが高いという人も多いと思う。しかし、語学力を向上させるのは、一にも二にも「慣れ」であり、英語のサイトを毎日ぼんやり眺めていると、だんだんと抵抗感が減ってくる。建築の情報を楽しみながら、自然に英語力が付くといった効果も期待できる。そして、目を引く画像やヘッドラインを見かけたら、本文を読もうという気になり、そうした自発的な行為が、語学力の向上には欠かせない。
ついでながら、私がネット上で使っている、英和・和英辞典は、アルクのサイト★16のトップにある「英辞郎 on the WEB」で、この辞書はかなり使える。日常的な単語の意味の確認は、このアルクの辞書で済ませることが多く、翻訳などで言葉の正確な意味の確認が必要な場合は、紙の辞書を数冊使うというようにしている。

★15──ウィキペディア URL=http://ja.wikipedia.org/
★16──アルクのサイト URL=http://www.alc.co.jp/

書籍、書店

『建築の書物/都市の書物』
(五十嵐太郎編、LIXIL出版、
1999)

『建築家の読書術』(倉方俊輔
ほか、TOTO出版、2010)

建築についての知識ということであれば、昔から変わらず「本」であろう。どの本が......ということはここではとても書けないので、とりあえず建築ブックガイドとして『建築の書物/都市の書物』を挙げておこう。この本は、出版されてから多少年が経っているので最近の本が入っていないが、基本的な読むべき本が良く揃っている。また、『建築家の読書術』は、若手の建築家や歴史家がどのような本を読んでいるかがわかり、興味深いだろう。
本屋についてだが、筆者が東京にいるもので、東京の情報のみになってしまうが、まず挙げるのは、南洋堂書店★17。建築関係のおもな図書はまず手に入るし、建築洋書などもめぼしいものを随時入荷しているのが嬉しい。同書店は、ウェブサイトも充実していて、他の書店がこのサイトで建築図書のチェックをしているといわれるほど。もちろん、遠方の人はネットでの本の注文も受け付けている(ネットでの本の購入といえば、amazonであり、とくに建築洋書を購入するのに重宝する。とはいえ、洋書は価格と内容のバランスがはなはだ悪いものが良くあるので、どのような本かある程度めぼしが付かないままネットで購入するのはリスクが高い)。南洋堂のある神保町はいわずと知れた古書の街だが(南洋堂も建築古書を扱っている)、建築古書を探すのであれば、明倫館★18村山書店★19がよい。

 

★17──南洋堂書店 URL=http://www.nanyodo.co.jp
★18──明倫館 URL=http://www.meirinkanshoten.com
★19──村山書店 URL=http://murayama.jimbou.net

ミュージアム、ギャラリー

これもまた、東京の情報となってしまうが、建築の展覧会を観るのであれば、ギャラリー間★20GAギャラリー★21がある。これらは建築専門のギャラリーだが、一般の美術館でも建築の展覧会というのは、よく行なわれている。建築の展覧会情報は、例えばKENCHIKU★22というサイトに集められている。アート全般では、アートスケープ★23というサイトが、国内の主要な美術館での情報を網羅している。そのなかから建築の展覧会を探すのは面倒かもしれないが、建築とアートやデザインは関係が深いこともあり、見つけた展覧会は建築に限らず足を運んでみよう。

★20──ギャラリー間 URL=http://www.toto.co.jp/gallerma/
★21──GAギャラリー URL=http://www.ga-ada.co.jp
★22──KENCHIKU URL=http://www.kenchiku.co.jp/event/index.php
★23──アートスケープ URL=http://artscape.jp

建築ガイドブック

やはりなんと言っても、建築のことを知るベストの方法とは、いくら社会の情報化が進んでも古今東西変わることがなく、実際に建築を訪れることに尽きる。では、建築を観に行くのに適したガイドブックはあるのか。いくつかあるなかでも、TOTO出版が出している「建築MAPシリーズ」は定評があり、東京、京都、大阪/神戸、横浜・鎌倉、九州/沖縄などが出ている。とはいえ、東京版のパート2が出てからすでに10年以上が経っているように、最新の建物は掲載されていない。マップやガイドというのは、制作にかなりの手間がかかるために、こうした専門的なガイドはそうたびたび更新するわけにはいかないからである。世界の建築ガイドとしては、『THE PHAIDON ATLAS OF 21ST CENTURY WORLD ARCHITECTURE』がお奨めだろう。2000年以降に建てられた、世界各地の優れた建築1,000点以上が収められている。やはり、こうした建築ガイドは、今後は、ネット上で集合知によってつくられることになるだろう。まだその過渡期といえるが、現代建築を集めたサイトとしては、MIMOA★24がある。現時点で、例えばロンドンで280あまり、パリで140あまりの現代建築が登録されている。これからこうしたデータベースは、地図と連動するかたちで充実するだろうから、例えば、前もって調べておかなくとも、旅先にてスマホで検索すれば、その街にあるめぼしい建物がすぐに検索できるようになる。旅の準備で、地図に建物の位置をプロットして、ルートを想像するといった楽しみは失われてしまうかもしれないが。

★24──MIMOA: Mi Modern Architecture URL=http://www.mimoa.eu

MIMOA

情報環境の変化のなかで

最後に、冒頭での問いかけをもう一度見直して欲しい。ここまで、いくつかの情報提供をしてきたが、それからもわかるように、陳腐な言い方であるが今日情報は溢れている。ただ情報に触れるだけというのは、とても容易だし、それに流されてしまうことは危険だ。すべての行為が生産的で能動的であるとまでは言わないし、もちろん気楽な時間を過ごすこともありだが、ネットサーフィンやSNSに多くの時間を費やすのは、時間の無駄である。実際、建築家に限らず一線で活躍している人たちが、そうしたことに時間を使っているわけがない。あくまでも、自身の仕事や研究・学習に有効な場合に限っているはずだ。
数十年前には、日本には優れた建築雑誌が複数あり、それらを毎月読むことで、必要な情報をうまく入手できるシステムがあった。そして、雑誌では、編集者がすでに情報を整理しているので、読者はそのセレクトされたものを受け取っていればよかった。ところが、いまは建築界に限らず、紙のメディアにそのような役割を期待することができなくなった。本や雑誌には、いまだに重要な内容があることは確かだが、情報整理という視点からすると、物足りない存在となったことは否めない。
このように情報環境が日々変化・進化している状況のなかでは、いかに情報と付き合うかという答えはなく、それぞれが自分のためにカスタマイズするしかない。そうしたことは、私よりも、ずっと年下の学生たちのほうがよっぽど身体化しているだろうから、余計なアドバイスと思われるかもしれない。だが、大学や職場で接する教授や上司とのあいだに数世代の開きがある場合、情報に関するリテラシーには大きな違いがある。例えば、かつては教授がその学問領域の知識をもっとも持っていたものだが、今日では若い学生のほうが情報をずっと多く持っていることもある。そうした構図のなかで、適切に情報を入手し、活用できるようなリテラシーを意識的に身に着けてもらいたい。また、これからはウエブを舞台とした集合知がますます重要となるから、積極的に質の高い情報をシェアし、情報を発信して欲しい。新しい情報のあり方は、新しい世代が更新し続けるだろう。


いまむら・そうへい
1966年生。建築家、アトリエ・イマム主宰、千葉工業大学准教授。作品=《神宮前の住宅》《富士ふたば幼稚園新園舎》《オーストラリア・ハウス》 《Corridor》ほか。著書=『現代都市理論講義』、『日本インテリアデザイン史』(共著)、『20世紀建築の発明──建築史家と読み解かれたモダニズム』(訳書)ほか。


201404

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