レムにとって本とはなにか
Elcroquis 131/132 OMA/AMO Rem Koolhaas[I], 2006.
Elcroquis 134/135 OMA/AMO Rem Koolhaas[II], 2007.
Rem Koolhaas & Hans Ulrich Obrist, Walther Konig, 2006.
Rem Koolhaas, The Gulf, Springer-Verlag, 2007.
Inside Outside: Petra Blaisse, Nai Uitgevers Pub., 2007.
さまざまな面で旺盛な活動を続ける、レム・コールハース。彼に関する本も3年もすればまとめて紹介できるほど溜まってしまう★1。今回は、取り上げるタイトルをまずは紹介してしまうと、『Elcroquis 131/132 OMA/AMO Rem Koolhaas [I]』『Elcroquis 134/135 OMA/AMO Rem Koolhaas [II]』『Rem Koolhaas & Hans Ulrich Obrist』『The Gulf』の4冊となるが、このなかでもこの連載において特に注目すべきは、『OMA/AMO Rem Koolhaas [II]』に収録された、評論家ビアトリス・コロミーナによるレムへのロング・インタヴューであろう。なぜなら、このインタヴューのテーマが、建築とパブリケーションを巡ってであるからである。
このインタヴューは、コロミーナがメディアに関心を払ってきた批評家であることからも、興味深いのであるが、冒頭で、レムの活動はいつも出版とパラレルであり、しかしそのことについてはこれまできちんと語られたことがなかったという指摘がなされ、それに対してレムはその通りだと認めている。
ここでは、レムのパブリケーションを巡っての会話が年代順に行なわれており、その内容がそのままレムの履歴になっていることが、レムという建築家の特異性を明快に物語っている。オランダ建築博物館のディレクターであったアーロン・ベツキーがレムのアーカイブを作ることを試みたものの、そのあまりの膨大さに、実現を断念したというエピソードも披露されているが、それはそうだろうと納得できるものがある。ル・コルビュジエが、若いころから自身にまつわるものをすべてアーカイブ化したということとも比較されているが、彼の時代とレムのいる現在とでは、メディアの状況が格段に違うのだろう。
レムは16歳のときはじめて本を書いた。そのタイトルは、「ディズニー・ランドのヨハン」というもので、もちろんこれは出版されていないが、写真を見ると表紙もきちんとデザインがされている。レムの父親、アントン・コールハースはジャーナリスト、編集者であり、40歳のときにインドネシアの地で突如小説家となった。レムもまた、高校を出るとすぐにジャーナリストになり、彼いわく当時はだれも経歴など問わないという時代だった。ジャーナリストとしてのレムは、かなりやり手であった様子がうかがわれ、というのも映画監督のフェデリコ・フェリーニやニューヨーク市長にインタヴューする写真が掲載されているし、なんとオランダを訪問したル・コルビュジエにも短いながらもインタヴューしたという。その後AAスクールに進み、建築家へと舵を取り直すのだが、そのままジャーナリストを続けていても、成功していただろうことは間違いないだろうし、現在のAMOでのものをはじめさまざまなリサーチや評論活動は、若いころから連続するものであって、またジャーナリストであった父親の血を継ぐ、彼にとっては血肉化されたものなのだろう。
もちろん、今回の2冊のエル・クロッキーの合わせて700ページを超えるヴォリュームは、そこに掲載された多くのプロジェクトが見所であるが、短い字数でそれらについてコメントするのはここでは控えておこう。
『Rem Koolhaas & Hans Ulrich Obrist』は、アートのキュレーターである、ハンス=ウルリッヒ・オブリストによる、レムへの6つのインタヴューをまとめた本である。この2人は、シティーズ・オン・ザ・ムーブといった話題となった国際展でのコラボレーション以降から、たびたび行動を共にする盟友のような存在であって、その2人が折りにつけ行なった会話が集められている。それぞれの初出は記載されているものの、年月が不明なのでいつのものか特定できないのが少しもどかしいが、レムの活動をよく知るハンスによるインタヴューは、通り一遍ではないピントの合ったものになっているといえるであろう。
『The Gulf』は、昨年のヴェネツィア建築ビエンナーレで、レム/OMAが手がけて話題となった展示をまとめたものである。レム自身もいくつかプロジェクトを手がけている中近東湾岸地域の各国の驚異的な開発ラッシュを扱ったリサーチである。
レムはもちろん書き手と刺激的であるが、建築家としても刺激的である。その建築は、リサーチをそのままヴィジュアル化したような手つきや、大胆な構造が従来の建築とは異なる表情を持ち、結果抽象化することに成功していることが指摘できるが、一方でその表現力あふれるインテリアや家具といったものは、実はコラボレーターの手にすっかりゆだねる、言い換えれば自分では手を下さないというのも彼の手法の特徴といえる。そうしたコラボレーターのなかでもこのところよく目を引くのが、インテリア、ファブリック、ランドスケープなどを手がけるペトラ・ブレーゼであり、その彼女の作品集が『Inside Outside』である。レムのプロジェクトのなかに彼女の名前を見ることが多いため、今まではそうした側面しか知られていなかったかもしれないが、妹島和世+西沢立衛のSANAAをはじめ、多くの建築家とのコラボレーションをこの本では詳細に見ることができる。SANAAとのトレド美術館など、いくつかのプロジェクトはペトラ自身によってそのプロセスが詳しく解説されており、ペトラの創作の秘密の一端を知ることができるであろう。
★1──前回レムおよびOMAに関する本をこの連載で紹介したのが、約3年前「じょうずなレムのつかまえ方(https://www.10plus1.jp/archives/2004/06/10122346.html)」であった。今回、ここに取り上げた本以外にもラゴスに関する本が出版を半年ほど前から予告されながらも現時点で未発行である。またAAスクールからも、彼が行なったトークをまとめた本が出る予定であったが、それも出版予定が今年の後半へと延期され、今回一緒に紹介するよう意図していたものの、残念ながら果たせなかった。ちなみに、OMAのサイト(http://www.oma.eu/)のなかに、publications というコーナーがあり、そこにはレムの著作や作品集がまとめられていて、かつ購入できるようになっている。
[いまむら そうへい・建築家]