膨張する都市、機能的な都市、デザインされた都市
THE ENDLESS CITY, Phaidon Press Ltd., 2008.
Kees Somer, The Functional City: The CIAM and Cornelis vans Eesteren, 1928-1960, Nai Uitgevers Pub, 2008.
L.a. now, Univ of California Pr., 2006.
今世紀が都市の世紀だと言われるようになってしばらく経つが、このところ新聞をはじめ一般誌においても都市に関する記事が顕著に多くなっている。それは、国内的には東京が変貌しそこに生活することの楽しさが広く喧伝されているという状況があり、また世界的には上海やドバイなど、急激な変化をともなう都市現象が話題性を持つからであろう。 以前から都市を話題にしていた建築家をはじめとする専門家にとっては、追い風と言える状況かもしれず、一般の動向に並行して、専門的にもすぐれた本が次々と出版されているという勢いが感じられる。
まずは、前回のヴェネツィア・ビエンナーレでディレクターを務めたリッキー・バーデットとディアン・スジックが編集をした『THE ENDLESS CITY』。表紙に並ぶデータからして、惹き付けられる。
──都市に住む人の割合は、1900年には10%だったが、2007年では50%であり、2050年には75%となる。
──上海における8階建てを超える建物は、1980年には121棟であったが、2005年には10,045棟となった。
──ニューヨーカーのうち、65%が人種的マイノリティーである。2001年に新たにロンドンに住むようになった人のうち、56%が国外で生まれている。
この本は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスがドイツ銀行のアルフレッド・ヘルハウゼン・ソサイティと共同で行なっているアーバン・エイジ・プロジェクトに関連するもので、その中間報告といっていいだろう。同プロジェクトは、2005年から始まり2010年までを予定している。世界各都市でカンファレンスを開き、これまで行なわれたニューヨーク、上海、ロンドン、メキシコ・シティ、ヨハネスブルグ、ベルリンの6都市の報告は、今回の本に含まれている。またエドワード・ソジャ、サスキア・サッセン、リチャード・セネット、レム・コールハースといった面々がこのプロジェクトに参加しており、この本にもテキストを寄せている★1。 こうした都市に関する活動が続けられ、広がりを見せているなかで、以前レムがAny会議のなかで、いくらラゴスや中国のことを話題にしてもまったく反応がなかったと嘆いていたのとは、違う状況になってきたように思える。言い換えれば、いまは都市について語ることがトレンドにすらなっている。一方で冒頭に述べたように、都市への関心は専門領域を超えた広がりを見せている。ロンドンをはじめいくつかの大都市はCO2の排出を大幅に減らすことを政策として大々的に掲げるように、自分たちの都市がどうあるべきかは、共通の関心事となっている★2。都市に関する分析が進むなかで、次は成熟した議論へと移行する段階となっているのだろう。 さて、こうした都市への対応を経済のフィールドの大学が先導しているというのは興味深い。本の表紙にいくつかの数字を引用しているように、経済的手法には数理的分析といったものがある。どうも数字という無味乾燥なものと建築や都市というものは、それらを文化的なものとして捕らえようとする立場からは結び付けにくいものなのだが、昨今データ分析が都市や建築の新たな創造のツールとなっていることはここで繰り返すまでもないだろう★3。
キース・ソマーによる『The Functional City』は、オランダの都市計画家コーネリス・ファン・エーステレンとCIAMとの関係を詳細に論じた出版物である。ル・コルビュジエやワルター・グロピウスが参加したことでもよく知られ、近代建築運動を推進したとされるCIAMであるが、日本語では近代建築国際会議と訳されていることもあり、なんだか近代建築家が数年ごとに集まる親睦会のような印象を与えがちである(例えば、Any会議は、毎回緩やかなテーマはあったものの、参加者の近況報告のような感があり、発表後の議論はあったのだろうが、全体として内容が焦点を結ぶことはなかった)。しかし、実際は、CIAMの各会議のために周到な準備がなされ、共同である成果として結実させることが目標とされていた。そのなかでもっとも有名なのが、アテネ憲章であろうし、また第4回の会議で発表された、世界34都市の同じフォーマットで描かれた分析地図である。ここで主導的な役割を果たした人物がエーステレンであり、彼は1930年から47年にかけてCIAMのチェアマンを務めた。このソマーの本は、第4回CIAMのテーマであった機能的都市をタイトルとし、公共住宅とアヴァンギャルドの関係、CIAMとそのワーキンググループについて、第4回CIAMの準備活動について、またそこでの都市計画の比較について、実証的に検証を試みている。この「機能的都市」の会議のためにつくられたプレゼンテーションは、1935年にアムステルダムの国立美術館で一般向けに展示され、好評を博し会期が延長されるに至っている。
都市を巡るリサーチとプロジェクトは、各大学でもますます活発になってきているようだ。『L.a. now』は、UCLAの建築都市デザイン学部における、地元ロサンゼルスの2つのエリアを対象とした5つのプロジェクトを収めている。プロジェクト・ディレクターはトム・メインであり、彼が指導するだけあって、プレゼンテーションも見ごたえがある。20年前のモーフォシスのトム・メインをイメージすると、大胆な形態の美しいドローイングという先入観を抱きうるが、実際にはこれらの広大なエリアの丁寧な分析から始まり、提案もまた計量的に検討されている。こうした学生によるプロジェクトも、単なる思いつきや個人的な趣味に走るのではなく、手続きを踏んだより説得力のあるものがこれからは増えそうな予感である。これまで、外国の大学のプロジェクトというと、なんだかとても魅力的だがその内容が読み取れないために表面的なコピーをするということに留まっていたのが、こうした実証的なアプローチというものは、お互いに参照可能であり、より深い議論へと導いてくれるものとして期待できるのではないか。
★1──アーバン・エイジ・プロジェクトの詳細については、プロジェクトのサイトhttp://www.urban-age.net/を参照のこと。
★2──今年3月24日付けの『朝日新聞』によると、世界全体のエネルギーのうち75%が都市で消費され、温室効果ガスの80%は都市に責任がある。また温室効果ガスの削減目標として、ロンドンは25年までに60%、ニューヨークは30年までに30%、パリは50年までに75%、東京は20年までに25%と発表している。
★3──レムやMVRDVに代表されるデータと表現の共犯関係のことを想像してもらえればいい。こうした試みの先駆けを検証するものとして、昨年秋武蔵野美術大学美術館で開催された「世界の表象 オットー・ノイラートとその時代」展は、きわめてすぐれた内容であった。同時に出版されたカタログは図版、テキストともに充実しているので参照のこと。第4回CIAMのためにエーステレンによりまとめられた「アムステルダムの都市計画」なども含まれている。また、バート・ローツマによるテキスト「何が(実際のところ)なされるべきなのか? MVRDVの理論的コンセプト」(『10+1』No.48所収)にも、計量的アプローチとエーステレンについて詳しい。
[いまむら そうへい・建築家]